『哲学ってなんだ』 竹田青嗣

哲学ってなんだ―自分と社会を知る (岩波ジュニア新書)

哲学ってなんだ―自分と社会を知る (岩波ジュニア新書)

 久しぶりに骨のある本を読んだ。岩波ジュニア新書を甘く見てはいけないと痛感させられた。いつものように通勤電車の中で読んだのだが、一本待ってでも…乗換の階段から遠くても…少しでも空いている車両で座って読まなければならないと思った。行きつ戻りつ、さまざまなことを考えながら読んだ。その中でも、特に印象に残った一文は・・・

すべての人が「善きこと」をめざして生きる社会とは、万人が唯一の理想的状態に向かうような社会であり、結局それは、人間の精神の自由という本質がまったく無視される無内容な社会になってしまう。ヘーゲルはそのことを理解していた。
 この「理想的推論」は志はよいとしても、やはり間違っている。正しい答えは、万人が「正しい人」になることを目指す社会ではなく、万人が自分の望む生き方を求めることができ、しかしそのことが互いの幸福の追求を侵しあわず、むしろ相互にその追求を支えあうことができるような、そういう社会のしくみを考えることだ。
 『共生』とか『共に生きる』というコトバを使いながらも、自分と考え方や価値観の違う人と出会うと、「なぜ、こんな自明のコトを理解しないのだろう。わかってないなぁ…」と自分の尺度でのみ判断してしまうことが間々ある。私も幸せになりたいけれど、彼も彼女も幸せになりたいのだ。お互い幸せになる権利を持っているのだ。
 ふと、アメリカのブッシュ、イラクフセイン北朝鮮金正日を思った。竹田さんの哲学の授業を聞かせたいと思った。学生時代に買って、読んでいないキルケゴールの『死に至る病』が本棚の隅で「そろそろ読んでみないか?」と背表紙を光らせている。