広瀬隆『原子炉時限爆弾』

 私の中に「原発」と言ったら広瀬隆という回路が出来上がっている。たぶん、若い頃に読んだ『ジョン・ウェインはなぜ死んだか』の印象が強いのではないかと思う。ジョン・ウェインをはじめ、ゲイリー・クーパースティーブ・マックイーンヘンリー・フォンダなど、ハリウッドの強い男たちは、なぜガンとの戦いに敗れ去ったのか。ロスアラモスの核実験場との関連をたいへん興味深く読んだものである。そんな広瀬隆の本が山積みされていたので手にとった。初版は2010年8月26日であるが、今回の東日本大震災を予言していたかのようである。地図・グラフが大変豊富で説得力のある書となっている。


東海村の原子炉導入に奔走した白洲次郎
○日本では、原発震災が本当に起こった時に、テレビ局はNHKをはじめ民放も、政府や電力会社からの圧力を受けて、現地住民や国民に正しくその危険性を伝えないだろう、
○膨大な熱量を熱水として捨てている。これが温排水と呼ばれて、日本全土の海を加熱し続け、同時に沿岸の生物を根絶やしにしている。
○2010年6月17日に、東京電力福島第一原子力発電所二号機で、電源喪失事故が起こり、あわやメルトダウンに突入かという重大事故が発生したのだ。日本のマスコミは、20年前であれば、すべての新聞とテレビが大々的に報道しただろうが、この時は南アフリカのワールドカップ一色で、報道人として国民を守る責務を放棄して、この深刻な事故についてほとんど無報道だった。
○日本の原発で耐震性が最も低い270ガルで建設された福島第一原子力発電所が6基、そのすぐ南の福島第一原子力発電所が4基、合計10基という巨大原発基地となって、首都圏に電力を送っているのだ。
○日本の電力会社は、地盤が強固な土地を選んで原発を建設するのではなく、原子力発電所の建設地を選択したあと、その「安全性」を証明するためにアリバイづくりの地質調査をする、という逆の手順を取ってきた。
○北海道幌延町が日本の最北端で、青森県六ヶ所村が本州最北端で、鹿児島県南大隅町が九州最南端である。そこが最終処分場の候補地というわけだ。東京・名古屋・大阪・福岡の大都市から遠いところが候補地とは、何を意味しているのか。そこに事故があっても、日本の都会人は自分だけは助かると思っているようだ。
○子供たちの世代に対して、「その危険性は分かっていた」という事実の釈明は、通らない
○ここ十数年の日本で、大きく変わったことがある。それは、20代、30代、40代の若者と働き盛りの人たちの大半が、このような社会的問題に立ち上がって、活動しなくなったことである。
原子炉時限爆弾

原子炉時限爆弾